大地震による賃貸建物の倒壊と死傷被害の賠償責任
 「東海大地震が来る」と言われて、久しいが、近い将来、地震が来る可能性は高いと報じられている。もし、宅建業者の所有しているマンションが地震で倒壊し、死傷者が出た場合、宅建業者は責任をとらなければならないのか。古い建物を賃貸する場合には、どのような注意を払えば良いのか。ここでは、問答式で疑問を明らかにしていく。         (フォーラム21、2001年1月号より一部引用)
●建物の保存に瑕疵がある場合は責任が発生
 結論から言えば、上記の宅建業者は無条件に責任を追及される立場にはないが、“建物の設置又は保存に瑕疵がある”と判断された場合は、所有者として一定の責任を問われることがある。

 建物の設置又は保存の瑕疵とは何か?
 民法における不法行為の規定中に「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵あるに因りて他人に損害を生じたるときは、工作物の占有者は被害者に対し損害賠償の責に任ず。但し占有者が損害の発生を防止するに必要な注意を為したるときは、その損害は所有者これを賠償することを要す」とある。
 建物は土地の工作物である。その「設置又は保存の瑕疵」とは、建物に建築時点から工事や設備に不完全なところがあったとか、後に建物や設備が損傷して建物として通常備えるべき安全な性状を欠いていることを言う。  

 建物の占有者とは?
 現にその建物を賃借している人を指す。法は第三者が被害を受ける場合を想定し、第三者に危険を及ぼさないよう、身近な占有者にまず注意義務を課している。ただし、占有者の責任は限定的で、「損害の発生を防止するに必要な注意を為したときは、所有者が賠償する」ことになる。
 したがって、建物に倒壊の恐れがあるような場合、賃借人は遅滞なく賃貸人や所有者に通知して対処を求める必要がある。
 所有者責任の免責はないか?
 民法の瑕疵担保責任は無過失責任である。設置または保存の瑕疵が損害発生の当時に存在すれば、誰が瑕疵を生じさせたかを問わず、責任を問われる。 
 建物の設置又は保存に瑕疵がある場合でも、地震災害では自然力が共同作用して損害を発生させるのでは?
答え そのとおりである。自然力以外にも、第三者や被害者の行為が共同に作用して損害を生じる場合もある。これらの場合も、瑕疵の存在と損害の発生との間に因果関係は及ぶので、賠償責任は免れないが、賠償額を算定する際に、自然力その他の共同作用分を減額して算定することは行われている。

 地震の規模が通常の予想をはるかに超え、建物が軒並み倒壊した場合は?
答え 瑕疵があってもなくても同じような損害が生じ得る場合は、損害に対して事実的因果関係がなく不可抗力と解されるので、この場合の責任は問われない。

 賃貸人が宅建業者の場合、賃貸借契約に基づく契約責任も問われるか?
 理論上、契約責任も考えられる。
賃貸借契約では、貸主は借主に建物を安全に使用収益させる義務を負う。もし貸主の故意または過失によってその義務の不履行があれば、損害責任が生じる。ただし、こちらは過失責任である。よって、地震により建物が倒壊したことにより被害を受けた賃借人が貸主の責任を追及するには、自然力との共同の作用のうち貸主の故意過失部分を主張、立証する必要がある。実務では、請求権が競合する場合、主張の容易な請求権を主位的に、主張の難しい請求権を予備的に主張することが通常である。
 
 築40年超の木造一戸建て住宅を所有することになったが、これをそのまま賃貸して、万一地震にあって賃借人が死亡したり、怪我をさせた場合、当社として賠償責任を免れるための特約は可能か?
 賃貸借契約の中で、「地震により建物が倒壊して賃借人に被害が生じても、貸主は賠償責任を負いません」と特約したとしても、いざ被害にあって、賃借人又は、遺族から裁判を提起された場合、この特約は借主側に一方的に不利なものとして無効とされてしまう(消費者契約法 他)。
 したがって、危険性のある建物は賃貸しないことがベストだが、賃借人側から、それを承知でどうしても貸して欲しいということであれば、必要な補修工事を行って、その内容・経緯を契約書に付記し、賃借人に誓約書を入れてもらえば、万一の場合でも、裁判官の心証をよくすることになろう。

 最近の裁判例で、現実に損害賠償を命じられたケースがあるか?
 阪神・淡路大震災の建物倒壊事故による賠償請求事件について、注目すべき判決があった。(H11.9.20、神戸地裁、民二部)(「判例時報」1716号)。
 事案は次のとおりである。
 神戸市内の軽量鉄骨コンクリート造一部鉄筋コンクリート造陸屋根3階建共同住宅(柱や梁が軽量鉄骨造、外壁や界壁がコンクリートブロック造、床や陸屋根が鉄筋コンクリート造)の1階部分が大地震で瞬時に完全に押しつぶされ、入居者のうち、4名が死亡、数名が受傷した。
 本件建物はD建設会社の代表者Dが亡妻から相続取得して所有し、Dが貸主となり賃貸中であった。築32年、当初の所有者はA会社、それからB、Bの親族、C会社、Dの妻、Dへと譲渡が繰り返された。
 本件建物の周囲には損傷した建物が多いが、本件建物の倒壊状態は格別であった。死者の相続人らと怪我をした者から、本件建物の所有者兼貸主であるDと仲介の宅建業者Xに対し、総額3億3,000万円余の損害賠償請求訴訟が神戸地裁に提訴され、審理の末、下記判決があった。
 
 裁判所の判断は次のとおりである。
@本件建物は、設計上壁厚や壁量が不十分であり、施工においてもブロック壁に配筋された鉄骨の量が十分でない上、鉄筋が柱や梁の鉄骨に溶接等されていないため壁と柱とが十分に緊結されていない不備があり、建築当時の基準によっても建物が通常有すべき安全性を有していなかった。   
A建築当時の基準により、通常有すべき安全性を備えていれば、倒壊の状況は、壁の倒れる順序、方向、建物倒壊までの時間等の点で本件の倒壊状況とは異なっていたと推認される。
B本件建物設置の瑕疵と本件地震の想定外の自然力とが競合して本件損害発生の原因となったものと解されるので、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨から、損害額の算定につき、自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌し、本件ではこの寄与度を5割と認定する。
C一般に仲介業者は、建物の構造上の安全性について建築士にように専門的知識を有するものではないから、建物の構造の安全性を疑うべき特段の事情が存在しない限りその調査義務までは負担していない。
 以上より、瑕疵のある建物の所有者であるDに対してのみ、自然力による寄与度の5割を控除した残金である1億2,900万円の支払いを命じた。
 
 当社の賃貸マンションは、宅建業者に契約の仲介から賃貸管理まで一任している。やはり、大規模な地震が起きた場合、仲介業者の責任はどうなるか?
仲介業者が建物の設置または保存の瑕疵について知っていながら対処を怠った場合でなければ、上記の判決Cで指摘されたように、構造の安全性までの調査義務はないと考えられる。