手付金の支払い猶予による信用供与と契約解除
  中古マンションを購入しようと思い広告で見た不動産業者を訪ねたところ、その業者は自社物件を紹介し、手付金の支払いは1ヵ月後でよいからと言って熱心に勧めるのですぐに契約を締結しました。
  2、3日よく考えてみると、資金計画に不安があったので、その業者に契約解除を申し出ると、業者は、「手付金放棄による契約解除となるから契約書上の手付金200万円を支払わなければ、解除できない。」と強硬に主張しており困っています。 (埼玉在住 36歳男性)
苦情の内容
  私は、家族3人で浦和市郊外の社宅に住んでおり、都内に通勤しています。
  交通の便が良い浦和か大宮市内でマンションを購入しようと思い探していたところ、折込み広告に良さそうな物件があったので、その業者を訪ねました。
  案内されたその物件は、日当たりが悪く断ったところ、別の自社物件を案内されて、気に入りましたが、予算より少し高く価格は3,800万円と言います。
  業者は、「この物件は人気があるので今日中に契約しなければ売れてしまう。」と言い、更に「手付金の支払いは、1ヵ月後でよいから今契約してくれ。」と言うので、契約締結をしてしまいました(印紙代は支払済)。契約書の特約に「1ヵ月後に手付金200万を支払う」と書いてあります。しかし、資金計画をよく検討するとどうしても不安があるので、3日後、この業者に契約解除を申し入れました。すると業者は、買主の手付金放棄による解約となるから、契約書に書いてある通り手付金200万円を支払わなければ、契約解除できないと言い張ります。
  実際に何も支払っていないうちに、しかも契約締結から3日後に契約解除を申しいれたにもかかわらず、200万円もの手付金を支払わされるのはとても納得できません。
業者の言い分
  このお客様はご案内したマンションが気に入って、私どもの店舗に戻ってからも、是非とも購入したいとおっしゃっていました。
  私共としましてもお客様のためにと、相談に乗っておりましたが、お客様は当初の予算より高いので、資金計画に多少不安を抱いていらっしゃったのは事実です。
  この物件は、質が良く値ごろなのでそのことも申し上げ熱心にお勧めしましたが、あくまでもお客様のために好意で、手付金の支払いを1ヵ月猶予した次第であります。
  お客さまにはそのことも含めよくご説明し、ご納得の上その旨を記載した売買契約書を締結したものです。
  したがいまして重要事項説明書の説明通り、お客様からの解約の申し入れであるので、まだ、いただいてない手付金は、当然お支払いいただかなければなりません。
紛争相談窓口の考え
  手付け契約は、売買契約に付随してなされる従たる契約であり、ことに不動産の売買については、売買契約の締結に際して手付が交付されるのが一般的となっている。
  しかし手付契約は、必ずしも売買契約の締結と同時になされる必要はないが、手付け契約が売買契約の後に締結され、その後に手付けの支払いがなされたときに、手付として有効であると認定した判例がある。
また手付け契約は、民法に「手付けを交付したるときは」と定めていることから、要物契約であると解されている。つまり、手付を支払ったときから、手付契約が効力を発することになる。
  宅建業法第47条3号は、業者が行う業務に関して、手付けについて信用を供与することにより契約締結を誘引する行為を禁止している。これは、売主業者が非業者買主の無知に乗じて手付けを貸し与えたりして契約を締結しておき、後になってその物件の契約を買主が解除しようとすると、手付けの放棄として貸付金を返還させたりするのを防ぐためである。業者としてはこのような業法違反の形態を避けなければならない。したがって、本事業の業者の行為は、宅建業法第47条3号に違反するので、支払い猶予されている手付金について、業者が買主に支払いを求めるのは妥当ではないと判断する。
本案件の結末
  業者は白紙解除を受入れ、手付金の支払い請求を取り下げた。
トラブルから学ぶこと
  この判例のほかにも、手付の一部を支払ったが、都合で解除しようとしたが残金を払わなければ応じられないと業者に言われた例もある。 
  手付貸与の禁止は、業者が手付の分割や立替え払いあるいは貸付などの信用を供与することにより、不動産取引にふなれな消費者に軽率な契約をさせないようにするためのものである。本件の業者は買主の便宜を図ったと言っているが誘引行為とみなされても仕方がない行為といえよう。
不動産物件の取得は買主にとって高い買い物であるので、せかすことなく、よく資金計画を検討させ、買主が十分に納得した上で契約に臨むべきである。
  契約締結に執着して、結果として相手方に迷惑をかけたり、威圧感をあたえては元も子もなく、トラブルにつながる恐れもあるので、節度ある営業活動が必要である。